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1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件

Magic Light Rhythm
Magic Light Rhythm / h.koppdelaney

※このエントリは、「その数学が戦略を決める」という1冊の本に対する書評であると同時に、自分の個人的な悩みの変遷が大半を占めています(しかもかなり長い)。いつものような、PRやWEB、ソーシャルメディアの話は最後に少ししかないので、期待した方はごめんなさい。仕事中ではなく、お暇があるときか、仕事がお暇なときに読んでいただけると幸いです。

小さい頃、科学者になりたかった。

科学者に憧れる多くの子どもと同様に、実社会での実用的なことや、俗世的な評価や成功に興味はあまりなかった(友達も少なかった)。中学を卒業するときも「試験のための勉強」である受験をせずに済むにはどうしたら良いかを考え、推薦で入れて大学受験のない、(高度経済成長の遺産である)函館高専を選んだ。

高専では、自分がいた北海道南から道央にかけての理数系の得意な連中が集まっていて、情報工学の基礎とともにいきなり微分積分や線形代数が始まった。今思い返しても「素晴らしき毎日」だったけど、その内、「なぜ数学やエンジニアリングをやるのか」が全く分からなくなってしまった。(10代後半の典型的な悩みの症状ね。)

「それはそれとして」と勉強を続けられる分別が当時あれば良かったのだけど(今もあるか怪しいけど)、また、進学校のように「大学受験」という超明確な目標があれば良かったのだけど、そのどちらもない高専生活の中で、勉強のモチベーションを保つのは難しかった。

その後の4年間は、その根源的な疑問に「直接的な答え」を与えてくれそうな人たち=「哲学者」「ミュージシャン」「年上の女性」と過ごすことに、ほとんどの時間を費やしてしまった。結局、明確な答えは得られず(その代わり、そこで学んだことは毎日の生活に彩りを添えるのに大いに役立ってくれているのだろうけど)、大学の哲学科を卒業し、ある偶然がきっかけでリクルートに入社、R25式モバイルというプロジェクトの編集部に入ることになった。

R25式モバイルの開発は協力会社に委託していた。もちろん、企画、取材や編集の仕事も最高に楽しかったのだけど、開発会社のエンジニアの方と過ごす時間もまた、何にも替えががたいひとときで、htmlの仕組みやPHPなどのサーバーサイドアプリケーションにはじまり、RDBや検索エンジンを自由自在に扱う彼らは最高にかっこ良く、何でも質問しまくっていた。(幸いなことに、リクルートを退社後も公私で付き合いが続いてる方が何人かいる)

「もし、高専を辞めずにそのまま続けていたら…」ということを何度も考えたし、自分が思い描いたことを実現してくれる彼らは、10代の頃の疑問の一部には答えてくれたのだけど、それでも頭の片隅に、いつもコンプレックスの形で存在し続けた。

そういうコンプレックスがあるものだから、(実際の数学やエンジニアリングをやる代わりに)数学やエンジニアリングについて扱っている「物語」を飽きるほど読んだ。スイスの物理学者、ティム・バーナーズ=リーがWWWを生み出した話は死ぬほどクールだったし、Google誕生秘話も同じような本を何冊か読んだ。WEBで偶然に出会ったブログや動画も、数学やエンジニアリングに意味付けをしているものは目に付き、心に染み付いた。

オバマが、大統領選で

「私は、感覚に頼る大統領選挙をやりたくない。事実やデータに基づく選挙戦をやりたい。だから、エンジニアの皆さんの助けが必要だ」

とGoogleのスタッフに語りかけたエピソードや、数学者アーサー・ベンジャミンが「数学の教育を変えるための公式」と題し、

「微積分ではなく統計こそ21世紀の数学だ」

と主張するTEDの講演は、何度も何度も見返してその意味を考えた。それでも、自分の気持ちを納得させる説明に出会えたことはなかったし、出会えないかと思っていた。

その数学が戦略を決める」を読んだのはつい先週のことだけど、約10年考え続けていたことが、ページ毎ページ毎に書かれてあって衝撃を受けた。

こんなにあっさり答えてくれるとは。どうして今まで気づかなかったのだろう。

本書では、「絶対計算」という特別な言葉を使っているけど、間違いなくこれは(書のタイトル通り)「数学について」の本だ。数学の本であると同時に、人間の知性や認識についての本でもあり、新しい時代認識についての本でもある。

本書では、「伝統的な専門家」が知識や経験を元にした意思決定を、「データによる分析」がいくつも覆している。

特に第4章「医師は”根拠に基づく医療”にどう対処すべきか」第5章「専門家VS.絶対計算」の豊富な事例は痛快で、例えば、最高裁判所の裁判結果予想対決では、83人の「伝統的な専門家」による予想は、素人による「データとたった6種類の要因による分析」には叶わなかった。

データが表すものは、紛れもない真理だ。見えなかったものが見え、謎は解け、未来さえも描き出す。

そしてそれは、今までの「専門性」をことごとく打ち砕くー。

データに勝てない専門医の現状の話は、人命がかかっているだけになんとも歯がゆい思いがする。

しかし、この本を冒頭から貫いているひとつのテーゼは、

「いかに人間は認識の間違いを受け入れられないのか」

というものだ。

ワインの品質を気候データだけで予測する手法は、伝統的なワイン専門家には決して受け入れられなかったし、出塁率を重視する野球のスカウト手法は、全国の競技場に足げく通う伝統的なスカウトマンからは受け入れられなかった。専門家の「専門性」が問われている時代に、我々はその間違いを、受け入れられるのだろうか。

19世紀の哲学者、ショーペンハウアーは次のように語った。

「真理はすべて三つの段階を経る。まず嘲笑され、次に激しい反発を受け、そして自明のこととして受け入れられる」

数学やエンジニアリングが専門家の「専門性」を変えたことは今までもあった。ロウソクが「実用」を終え、芸術の色見を帯びて生き長らえているように、18-19世紀の産業革命以前の「信仰」はもっと実用的なものだったはずだ。戦略家にとって、亀の甲羅や星空の配置を読むことは、今の戦略家がスマートフォンを使いこなす程度に実用的だったに違いない。(実際にそれで意思決定してたのだから。)

19世紀の最後の最後に「神は死んだ」と言われながらも、20世紀、「信仰」が消えてなくなった訳ではなく、人間の最も神聖な部分として21世紀の今も残っている。

今、我々は多分、21世紀に「何が芸術品になるか」を見極めなければならず、恐らく、多くの「専門性」は芸術品のようになるんだろう。(そしてそれは決して無用のものにはならず、「信仰」のように、毎日の生活に意味を与えてくれるものになるんだろう。)

-それが、数学やエンジニアリングをやることの自分なりの答えだった。

さて、

「広告費の半分は無駄なことはわかっている。問題なのはどっちの半分が無駄なのかわからないこと」

というマーケティング業界の名言は、20世紀初頭、アメリカの実務家John Wanamakerが言った言葉だ。

それから100年経った今も、あまり状況は変わっていない。

しかし、先日私のあるPR業界の先輩は、

「今のPRパーソンはシャーマンみたいなものだ。適当なキャンペーンをでっち上げ、”流行れ〜!流行れ〜!”と毎日祈祷している。あたかもシャーマンが”雨降れ〜雨降れ〜!”と祈祷していたかのように。未来のPRパーソンは天気予報士のようにならなければいけない。データを元に、複雑系を確率で予測するモデルだ。」

と言っていた。さらに去年、会社の世界中のオフィスのデジタルチームのトップが集まった会合で、ヨーロッパ統括は、

「今までの我々はGURUでいるのが仕事だった。これからはGEEKでなければいけない。」

と語った。ソーシャルメディアやデジタルの成功歴を神秘的な雰囲気で吹聴するのではなく、データに基づいた意思決定を行うフェーズにきた、というメッセージだった。

シャーマンか天気予報士か、グルかギークかはともかく、「新しい専門性」に対する問いは、既にこのPR業界においても全面的に投げかけられている。

と、長々書いておいて、第8章「直感と専門性の未来」以降は、実はまだ読んでいない。せっかくFacebookやYouTubeが膨大なデータを無料で公開してくれていて素材は豊富にありるので、よろしければ、一緒に本書の続きを読んで、PRパーソンの新しい専門性について考えてみませんか?

その数学が戦略を決める (文春文庫) その数学が戦略を決める (文春文庫)
イアン エアーズ,Ian Ayres,山形 浩生

文藝春秋
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Posted By nshoji

13 Responses to “1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件”

  1. ブログ書いた「 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件」 http://bit.ly/eMLUd4

  2. このブログポストは、(プライベートモードにしてるけど)熱烈推薦してくた @shuma_ に捧げます。 http://bit.ly/eMLUd4 

  3. RT @nshoji: ブログ書いた「 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件」 http://bit.ly/eMLUd4

  4. よし より:

    夜中にはヘビーな文章でした。シャーマンw RT @nshoji: ブログ書いた「 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件」 http://bit.ly/eMLUd4

  5. より:

    RT @j_sato: RT @nshoji: ブログ書いた「 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件」 http://bit.ly/eMLUd4

  6. RT @shuma_ "まさにオープンガバメントの根本思想として息吹いている" RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/eMLUd4

  7. kyohei takizawa より:

    ナイスポストですね。「その数学が戦略を決める」読みたくなりました。RT @nshoji: ブログ書いた「 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件」 http://bit.ly/eMLUd4

  8. 面白そうな本ですね!シャーマンの感も大事ですよね。 RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/eMLUd4

  9. RT @Capote: 面白そうな本ですね!シャーマンの感も大事ですよね。 RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/eMLUd4

  10. RT @Capote: 面白そうな本ですね!シャーマンの感も大事ですよね。 RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/eMLUd4

  11. わたぼう より:

    天気予報士にピンときて購入w RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/eMLUd4

  12. RT @watabow_st: 天気予報士にピンときて購入w RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/eMLUd4

  13. RT @nshoji: 1冊の本が10年来の悩みを解決してくれた件 http://bit.ly/ifAP6c

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